安楽死か、殺人か? を主題にしている。
介護の現実と理想の間で、何を罪とするか?
難しい題材ではあるが、やはり映画として判決は出して欲しかった。
主人公の処遇を決める事で、制作陣営なりの意思表示をすべきだったと思う。
長野県の介護センター。
主人公は、人当たり良く、対象者に寄り添うような仕事ぶりの介護士。
新人から尊敬される勤務態度。
ある日そこの所長が利用者宅で死亡する事件が起きる。
同日利用者も死亡していた。
警察は所長を被疑者と見て捜査を開始する。
主人公も取調べを受ける。
担当検事は所長のセンターでの利用者の死亡数の多さに疑問を持ち、調べると、主人公
の休日に死者が集中している事に気付く。
主人公は暗に殺害した事を自供するのだが、数が合わない。
検事は主人公が介護に就業する以前の空白の数年間に父親が死亡している事に気付き、
父殺しをしたのではないかと考え、尋問するのだが、という話。
これはいい作品だった。
安っぽい泣かせもなく、無駄な煽りもなかった。
わざとらしい効果音も、大仰な台詞もなかった。
題材が重いので、辛気臭くはあった。
介護離職の現実や、健康だと生活保護を受けられない、逃げ場のないしんどさ、家族への負荷、それらの何処にでもあり誰にでも降りかかる、明日該当者になるかもしれない
厳しさがさり気なく織り込まれており、よく整理されていた。
亡くなる前の調子が良くなる時と悪い時の相互に訪れるという描写、疲労とイラつきで
つい手を上げてしまうという動き、介護の過酷さが良く分かる演出だった。
主人公と父親の傷んで汚れた服、部屋の散らかりぶりも良かったが、主人公の趣味性の物が見当たらなかったのは気になった。
子どもの頃の写真だけだと、主人公の本来の人格が推し量れないので。
せっかく検事を相手役にしたのだから、裁判の場面も欲しかった。
せめて判決だけでもいいから。
重たい案件に挑戦したのだから、観客に判断を委ねるだけでは弱い。
制作陣営としての見解を示すべきだった。
あれでは主題が曖昧になり、主人公に救いがあって良かったというお涙頂戴になってしまう。
制作陣営はそれでいいのだろうか。
これから生まれる人より死者の方が多いという未来の到来は予測されている。
だからこの映画を作ったのではないのか?
挑戦したのだから、簡単でいいので結論を出して欲しかった。残念だ。
全体として緊張感があって良かっただけに。
主人公の欠落した感じは良かった。
検事はスタイルが良いので出てくると画面の辛気臭さが和らいでホッとした。
鼻筋が通っているのは発見だった。
この映画は全ての人が関わっているといってもいい案件を扱っているので是非とも多くの人に見て欲しい。
介護にも関わる後見人制度の問題点を取り上げた映画。面白い。
妄想と現実。これもある意味介護?
裁判における犯罪の罪科の妥当性と罪か否かの線引きについて。
これも家族の話。