風立ちぬ


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零戦」の設計者として名を遺す堀越二郎の伝記風物語。

戦争物だとの紹介記事も見たような気がするが、これは飛行機を愛する人物の恋愛

映画。

戦争はただの背景。

 

関東大震災で接点が出来た相手と結婚、というのは予定調和。

天空の城ラピュタ未来少年コナンのような高揚感がないと思ったが、この映画には

悪役がいないのだ。

 

ラピュタもコナンも、困難な状況を踏みつぶして突破していく。

一般人には真似できない。

だが、彼らは「楽々と」こなす。

彼らには高い身体能力と優れた判断力がある。行動も早い。

無茶な設定も、あり得るかのように錯覚させてしまうだけの描写がされている。

 

こちらの主人公は本当に日常生活を送っているだけだ。

彼が恵まれた環境に育ち、専門家として認められるだけの才覚と社会的地位を保持する

人間である事は、登場当初から分かる。

貧困問題に無関心なわけでもない良心的なエリートである事も示される。

 

仕事で扱う飛行機が軍事用として製造される。

それでも彼の身近には戦争は影を落とさない。

むしろ婚約者の病気の方が深刻な問題として扱われる。

 

これは戦争の決定に関与する側にとって戦場は他人事だったという事を暗に示している

のではないか。深読みし過ぎなだけか。

 

最後まで戦争についての具体的な描写はなかった。

食糧問題も、エリート層である主人公には起きなかったという事だろうか。

 

戦争を完全に背景として扱っている事は、道義的には責められるべき事だろう。

ただ、当時のエリートにとってはこれが実感だったのでは。

どこかで誰かが戦っているのが戦争。

具体的な犠牲や暴力、戦地の事は知らされないから分からない。

日常が保全されていればそれでいい。

「君が役に立つ人間である限り、会社は全力で君を守る」これも十分恐ろしい台詞

なのだが。

 

主人公の周りに良心的な人しかいない。

おとぎ話だからいいのだろう。

作戦行動の是非はともかく、飛行機の使われ方についての葛藤くらいは描写すべき

だったとは思った。

 


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戦争を作る側の人々の映画。この映画が物足りなかった人はどうぞ。